院長ブログ Vol.32 「下天」
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「下天」
「人間五十年、下天のうちにくらぶれば、夢幻がごとくなり・・・・」
これは戦国の世、明智光秀の謀反により天下統一を目前に本能寺の変で斃れた
織田信長が好んだ、幸若舞、「平敦盛」の一節です。
(興味のある方は、下記の織田信長の「敦盛」で聴いてみてください)
信長は、この「敦盛」を愛誦し死に臨んでも口ずさんだとも云われ
本能寺の変で信長が自刃するさい、この平敦盛を誦し
舞うシーンがよく放映されています。
この幸若舞「敦盛」にある人間五十年とは、人間の寿命の
ことではなく、下天の一日を人間世界の時間で表わしたものです。
もっとも人生五十年と、いわれた戦前、昭和初期よりも、はるか昔の
信長が生きた戦国の乱世では、人間の寿命は、下天の一日にも満たない
儚いものだと言えるでしょう。
ところで、下天は天界の二十八ある天の中の一番下の天で、四天王界とも云われます
因みに、一番上は、無色界の有頂天と云われています。
下天の住人の寿命は500歳といわれ、人間の年齢に換算すると、一日が人間世界の
50年ですから、『50×365×500=9125000』一番下の下天にしてこの長さですから、
一番上の有頂天の住人ともなると、その寿命は人間からすると天文学的な時間の長さ
でしょう。
先日、地方に住んでいる学生時代の友人が大阪に出てくるというので
二十数年ぶりに会いました。
若かりし頃、出てなかったところは出て、あったはずのところは抜け落ち、
すっかり容姿が変わった友人の姿に驚き(自分も立派なおやじになってしまったことを忘れ)
「久しぶり!おまえ、変わったな~、どこのおやじかと思った」と声をかけ
お互い、五十歳を過ぎ健康で、恙無く過ごせていることに喜び、再開を祝福し合いました。
そして、酒を酌み交わしながら、時間が過ぎるのも忘れ、夜遅くまで、
学生時代の思い出から、親、嫁、子ども、仕事などなど、積もる話をしました。
あっという間に時間が過ぎ、時計をみればもう帰らないと電車がなくなる時間で、
名残を惜しみつつ別れました。
帰りの終電の中で別れ際に、友と交わした会話がよみがえりました
速くなっているように感じないか?」
私 「俺も、同じように感じる、若い時と比べて、
何か、あっという間に時間が過ぎていくような気がする」
友 「そうか、俺だけじゃないんだ、お互い五十歳の峠を越え、
とっくの昔に人生の折り返し点を過ぎたわけやから、身体に
気をつけてガンバろ、また何年先になるかわからんけど、また会おうな」
そして『どれだけの時間が、私に残されているのか?』という思いが
ほろ酔いの頭の中で渦巻いてきました。
どんなに考えてみてもこればかりは、天のみが知ることで、どうにもなりません。
いづれにしても私には、下天にくらべれば一瞬にも満たない時間しか残されていない
ことは確かです、しかし、時間が許す限り歯科医師の仕事が天職であると肝に銘じ、
スタッフと力を合わせ、患者さんのお役に立つ仕事を続けていきたいと考えています。
医療法人 添田歯科診療所 院長 添田義博
※ 幸若舞: 幸若舞は、能や歌舞伎の原型といわれる、室町時代に流行した語りを伴う
曲舞(くせまい)の一種。日本最古の舞楽として700年の伝統があり、毎年
一月二十日に大江天満神社で奉納される。福岡県みやま市瀬高町大江に伝わる
重要無形民俗文化財として現存している。
※ 天界:天界は3つの世界(欲界、色界、無色界)に分かれていて、3つの世界にある
天を併せると二十八天になります。天界の住人は、長寿で、満ち足りた環境ですが、
仏教では、人間、阿修羅、畜生、餓鬼、地獄とあわせ六道輪廻といわれ、生まれ変わり、
死に変わりを繰り返す、迷いの世界とされています。
※ 人生五十年:初めて公表された簡易生命表(明治二十年代)によると、平均寿命は男女
それぞれ42.8才および44.3才で、第二次世界大戦前までは、人生五十年といわれ
人の寿命は、せいぜい五十年といわれていました。戦後五十年間における平均寿命は
驚異的な伸びをみせています。