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PostHeaderIcon 院長ブログ Vol.19 「五月蝿い」

 

——————————————————– 院長ブログ

 「五月蝿い」

「ウィーン、ガリガリ、ガリガリ、ウィーン」

「先生、その五月蝿い音、何とかなりませんか?それを聞くと寿命が縮まりますわ」と

歯医者恐怖症と思しき患者さんから、この、五月蝿い切削器具の

音に対しお叱りを受けたことがあります。

我々は、30年近く前から、ほぼ毎日この音に慣れ親しんでいるので

決して心地よい音とは感じませんが、いつのまにか鈍感になってしまっています。

しかし、たまに治療に来られて歯を削られる側の患者さんにしてみれば、

さぞかし、不快な五月蝿い音だと感じられると思います。

私も、幼いころ、よく父に虫歯の治療してもらった経験があるので

その、不快な、五月蝿い音で条件反射のごとく患者さんが体を捩ってチェアーから

逃げだしそうになる気持ちはよく分かります。

      

ところで、「うるさい」を何故、「五月蝿い」と書くのかといいますと

もともと、「うるさい」は「煩い」と書くのが正解だったそうです。

しかし、江戸時代中期に、五月(陰暦、現在の六月)の蝿は元気がよく

ブンブン飛び回り、うるさいので五月蝿いという漢字を当てたそうで

それ以来、「うるさい」は「五月蝿い」とも書くようになったそうです。

このブンブン飛び回る、「うるさい」、「五月蝿い」

蝿は、ゴキブリと並んで害虫の代表のような虫ですが

バイ菌をまき散らす、きたない、迷惑な虫とバカにばかりできません

彼らは、ブンブンと五月蝿く飛びまわるだけが能じゃないようで

なんと、彼らの子供、ウジ虫くんは医療の現場で立派に治療者として活躍しています。

彼らが活躍する治療法はマゴット(英語でウジ虫)治療といい、

その歴史は古く、オーストラリアのアボリジニ人社会、古代マヤ、ビルマ伝統医療など

数千年前から行われていた記録があるそうです。

19世紀になって、アメリカで西洋医学に取り入れられ

広く欧米に普及しましたが、様々な抗生物質の開発、外科治療の進歩により

1940年以降は、衰退していきほとんど行われなくなりました。

しかし、現代、抗生物質の多用により、抗生物質が効かない耐性菌など出現、

そして糖尿病患者の増加などにより、再び、脚光を浴びています。

無菌状態で育てられたウジ虫くんが、糖尿病性壊疽や難治性の創傷などで

苦しんでいる患者さんの患部に投入されます。

彼らは、細菌で汚染され壊死した組織だけを食べて

不必要なことはしません(我々も見習わないといけないですね)

そして、彼らが出す分泌物には病原菌を、殺菌作用があることも分かっています。

私は、マゴット治療を調べてみて

『きたない虫の代名詞である蝿の子供が、きたない創をきれいにし、おまけに

きたないバイキンをやっつけてくれるなんて、とても面白い治療があるもんだな、

将来、もし糖尿病などの病気になれば、お医者さんに診てもらうより、

ひょっとして、ウジ虫くんのお世話になった方がいいかもしれないな』と感じました。

    

夏が近づき蒸し暑くなってくると、ごくたまに五月蝿い蝿が診療所に紛れ込むことがあります

ブンブン五月蝿く飛びまわり、疲れて、チェアーの片隅で羽を休めている、蝿を見つけると

患者さんに顔をしかめられ、五月蝿い音を出しながら

虫歯や歯石などバイ菌の塊や、バイ菌に汚染された部分を削りとっている我々は

マゴット治療で活躍している、蝿の子、ウジ虫と同じで、妙に親近感を感じ

小林一茶の「やれうつな、蝿が手をすり、足をする」という有名な俳句が思い浮かびます。

そして『ブンブン五月蝿く言わずに、誰にも見つからず外に出て行けよ』と心の中で

蝿に語りかけます。 

医療法人 添田歯科診療所 添田義博

※小林一茶 : 宝暦13年-文政10年(1763-1828)

          長野県北部信濃町柏原出身。江戸時代を代表する俳人の一人

※アボリジニ人:アボリジニ(Aborigine)とは狩猟採集生活を営んでいた

          オーストラリア大陸と周辺の島々の先住民

          ”aborigine” は、英語において日本語の原住民に当たる言葉だが、

          先住民という概念が広がるにつれオーストラリア先住民という意味合いで

          使われることが多くなった

          「アボリジニ」に差別的な響きが強いため、現在では「アボリジナル」または

          「オーストラリア先住民」という表現が一般化しつつ有る。

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