院長ブログ Vol.10 「リップサービス」
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「リップサービス」
お世辞や、お上手をいうことを、欧米で「リップサービス」といいますが、
Lip = 口先、口先の Service = 礼拝
『口先だけで 「主よ 、あなたを信仰します」 という意味で、
これが口先だけ好意・信心・忠誠』
という意味で使われるようになったそうです。
私の家は、父の家からスープの冷めないぐらいのところにあり
妻は買い物など、父の家へ、よく手伝いに行きます。
父は妻に、「カヨコ(父は妻をこう呼びます)さんは、本当に美しい二十代の
お嬢さんのように、いつも若いね」などと、よく真顔でお上手をいいます。
父にお上手をいわれ、気を良くした妻から
「お義父さんは、本当にリップサービスがお上手ね、
それに比べ、あなた、本当にお義父さんの子供なの? 少しはお義父さんを見習えば・・・」
という言葉が飛んできます。そして同時に、
『日頃、ファミリーサービスも少ないのに、リップサービスぐらいできないとね・・・
でも、あなたには無理ね~』
と音声多重放送の副音声のように、本音の声として私の心にと響いてきます。
この言葉は、私の中にある開かずの扉を開くように、触られたくない記憶をよみがえらせます。
場面(6、7歳の頃の新年の親戚集まりにて)
親戚・両親 「あんた、本当に親に似ない鬼子(おにご)やな、
お父ちゃんの子と違うんちゃうか?」
私 「そんなら、僕は、誰の子や?」
親戚・両親 「実は大和川(昔住んでいた家の、すぐ近くを流れていた川)から、
桃太郎みたいに流れてきて、橋の下で拾てきた、子やねんで」
私 「・・・・・・」
私は昔から口下手で、父と性格も全く違うのでよく幼いころ両親や親戚から、
冗談でよくからかわれたものでした。
そういう、いきさつもあって妻から、髪の毛の本数では勝っていても
(父は、私と同じ年齢のころには、すでにかなり髪の毛が上の方に後退し、
そのことを気にしていたようです)
口の上手さでは、父の足下にも及ばない私は父と比較されると、
分かっていても面白くなく、「人は、口じゃない、心、心、巧言令色少なし仁というだろ」
とむきになって柄にもなく、うるおぼえの論語などで応戦してしまいます。
悔しいけど、正直、父のリップサービスの上手さは認めざるをえません。
少し前まで、診療所でもよくアラファイブ、アラシックス、それ以上の
女性の患者さんに「あなたはバラの華のように美しい。ひょっとして昔、
女優さんだったんじゃないですか?」
などとお上手をいっていました。横で聞いていた私は
「女優さんは、女優さんでも吉本のお笑い系と違うか、よく真顔でいえるよな~」
と思ったものでした。
(父の患者さんで心当たりの方、吉本新喜劇の女優の皆様、気を悪くされたら、
お詫びいたします、すいません)
しかし、そう言われた患者さんは、
「本当に先生たら、また、お上手ばっかり、ホ ホ ホ ホ 」と、
まんざらでもないようで嬉しそうされていたことを思い出します。
私も一度負けじと、父のまねをして妻に、「君は、バラの華のように・・・」と真顔でいうと
「あなた、きもい、どこかおかしいのと違う・・・」といわれ打ちのめされたことがあります。
最近は、父の患者さんも70、80歳の方が多くなり通院できなくなったり、
父も診療する時間が短くなったせいか父のリップサービスを聞くこともあまりなく、
私は父のまねをしてリップサービスをしようとは思いません、
またできませんが、父のように、歯の浮いたようなお上手で
リップサービスをし、患者さんを喜ばすことはできなくても、
歯の浮いた患者さんは治すことはできると、
最近は開き直っています。
歯が浮いて、何となく気持ち悪い方、お早目に歯医者さんへ!
医療法人 添田歯科診療所 院長 添田義博
※巧言令色少なし仁 : 孔子の言葉(論語)で、口先が巧みで、角のない表情をする
も のに、誠実な人間はほとんどない意味です。